体力的な余力はあるけれど、精神的に疲れ切って難しいこと考えたくないタイミングがあったので、ヴィレッジヴァンガード寄って漫画を買い込んでみました。事前情報はあんまりなしで、ほぼジャケ買い。
それでわかったのは、ミステリちっくに伏線張りめぐらせたのとか、恋愛のくっついたり離れたり、青春のどろりとした自意識を親切丁寧に描写した漫画は疲れている時には向かないなと。
もっとこう、美しい絵画のように、ぼーっと眺めて楽しめる漫画が欲しい。絵が綺麗で、お話が込み入ってなくて、でもちょっと最後はほろりとくるみたいな(贅沢)。
そう考えていたら、あまり回転していない頭で読んでも楽しかった漫画を、特に誰かにオススメするわけでもなく、セレクトもランキングもなくだらだらと語る、というのがしたくなったので満足するまで書き続けます。
りとうのうみ(作者:たかみち)
「少女とあおいそらとうみ。ようこそ、てぃーだかんかんの美ら海へ。」
離島で暮らす少女海ちゃんと島の人々のほんわかスマイルストーリー。
フルカラー漫画。一応ストーリーはあるし、展開はするんだけれども。きれいな沖縄の風景も、元気な女の子がのびのびきゃっきゃ戯れている様も、心和むし無敵だからもうそれでよくない?何でもかんでも深く考えればいいってもんじゃない。
なんてことないふつうの夜に(作者:嶽まいこ)
眠れる日にも、眠れぬ日にも。夜のおともの掌編集。「ふつう」の夜を過ごす人々の、気持ち温(ぬく)まる、ちょっぴり不思議で可笑しな12の瞬間。
どれも本当になんてことないふつうの瞬間で、でもどこかおかしい、みたいなエピソードが粒ぞろい。そうそう頻繁にはおこらないけれど人生に一回くらいはあってもいいよね、くらいの絶妙なリアルっぽさがいい。
結婚を控えたクールなOLが、深夜に辿るネットの海の記憶「追憶のネットサーフィン」が、何度読んでもじわじわきて好き。自分的「私の好きなインターネット」感。
星の案内人(作者:上村五十鈴)
「ほら真上を見上げてごらん」プラネタリウムを舞台に繰り広げられる、人と空との優しい物語。
それぞれの人生で不意に輝く星の話。おじーちゃんの語る星の物語が、難しく考えずに「そーなんだ!」て思えていい。とても健康的。
疲れていると自分の頭で考えたくなくなって、誰かに決断をゆだねたくなるんだけれど、そんなとき星は何もいわず輝いていて、そこにいてくれるのですよ。
34歳無職さん(作者:いけだたかし)
「色々と思うところあって、1年間なにもせずにいようと決めました」から始まる34歳無職さんの日常。
34歳無職さん 1<34歳無職さん> (コミックフラッパー)
- 作者: いけだたかし
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / メディアファクトリー
- 発売日: 2013/06/27
- メディア: Kindle版
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特にハプニングは起こらなくて、だから平凡な日常がちまちまと描かれているんですけれど、それがふとした瞬間ぞわっとくるのなぜ。カラフルじゃないけどモノクロでもなくて、セピアっぽい。モノクロームが静かに規則正しく音を刻んでいる感じです。ただし不穏な空気はちらちらあるので途中で読むのをストップするのがよろし。。
東京ラストチカ(作者:みよしふるまち)
明治43年。裕福な子爵家で女中として働くことになった女性と、若き当主との出会いと想い降り積もる日々の話。
丁寧に書かれた予定調和。この予定調和を、10代後半の自分なら「ありふれた身分違いの恋」と鼻で笑ったんじゃないかしら。とても綺麗で儚くて、雨が降れば地に落ちる桜のよう。先は予測できて、だから絵画のようにぼんやりと、その美しさに酔えるのです。
人魚王子(作者:尾崎かおり)
そらのあおとうみのあおが、かさぶたを剥がすような痛みの短編集。
多分、よし読むぞって気持ちで読んだら物足りなかったと思う。思春期の痛々しさとか不安定さを、ナイフで切り裂くほどには痛くなく描いている。でも、にじみ出る柔らかさとか透明感とかそういうものと溶け合って、なんだかちょっと心地いい。学校の自主制作フィルムを大人が覗いている背徳感がある。
かごめかごめ(作者:池辺葵)
「清い心と体を主に捧げ 主の宮で生きんことを」。置き去りにしてきた喪失感とひきかえに、わたしがたどりついた場所。
静謐で美しい修道女の暮らしの中に、ふと落とされた黒いしみ。平然と知らぬふりをしながら、神に祈りを捧げ、日々は淡々と過ぎていく。池辺先生の作品は、登場人物たちが言葉少なに、心の中でだけ淀みが貯まっていく描写が巧みで、この作品は特に表面上の静けさとのコントラストが綺麗。眺めるように楽しめます。
チュニクチュニカ(作者:水谷フーカ)
「造船技術が進歩したこの時代 人々の関心は海の向こうにあった」。少女と、新大陸チュニクで発見された少年の交流と冒険 。
言葉の通じない少年少女の交流、に「ふーん」と読み始めたのは今は昔。コミックで書き下ろし追加されたラスト3頁の「ある人」の焦燥と決意にドバッと泣いたんですがどういうこと。その10頁前くらいまでは「イイハナシダナァ」と斜に構えてたのに。
絵空事のように綺麗な物語で、でもマージ可愛いし癒されるからそれで十分。なのに最後の頁のせいで、物語全体から心のデトックスさせられた気分になります。
はてなデパート(作者:谷和野)
一風変わった支配人のいるデパートで、訪れた人が見つけた大切なものは?「人が欲しいもの手に入れる瞬間に立ち会えるんですよ しかも渡す役ができる」
どの物語もちょっと不思議であたたかくて、優しい気持ちで読み進められます。悪いひどい人もいないから心にストレスフリーで、 でも偽善という言葉までは浮かばない素敵バランス。
「人が欲しいもの手に入れる瞬間に立ち会える」多分コミック通してのテーマ的なものなんだと思うのですけれど、後半その意味が深掘りされて、思わずホロリ。涙活。
107号室(作者:カシワイ)
全編カラーで紡がれる18の物語。「これはまったく不思議なことだが 空き地になってはたと気づく 何があったのかわからない」。
誰もが知らない部屋から届いた誰もが知っている五日の光景。ぱきっとしたストーリーは感じないので、綺麗なカラーのイラストを追って、余白とセリフと余韻を楽しむ感じ。
短編集というよりは短歌集?言葉足らずなんだけれど、自分の過去や経験がうまくリンクすると、勝手に行間を読み取って胸が痛くなったりする。すぐ忘れるけれど。
よしひとまず書いて満足したのでここで終わり(後で勝手に追加するけれど)。
自分らしさ的なものを考える時に、文章自体よりも、こんな風に何かを選ぶ「セレクト」にらしさって出るよなぁと思う今日この頃です。何を選んで、そして何を選ばないか。
このラインナップを自分は「眺めるように楽しむ漫画だ」と思うけれど、そうじゃない人もきっといるだろうし。
あと、ヴィレッジヴァンガードで買い物すると「あぁ自分記号消費してるー!」て高揚感あるんですけれども、自分で納得しているうちは記号消費でいいんじゃないかと思いつつあります。ああいうのって気がつかず騙されたと思うからよくないんだよね、納得しているならそれでもうあとは本人の問題、て気がする。