オンライン小説(いわゆる「オンノベ」)ROM専歴10年くらいのライトユーザーな自分が、小説家になろう(いわゆる「なろう」)のブーム変遷をオンノベ黎明期も交えて追っかけてくコーナーですー。
はてなだし「和風Wizardry純情派」から語るのが正統なのかもしれませんが、自分の観測範囲的に「ほぼ女性向け」で進めます。...でも好きだよ!迷宮街クロニクル。
- 黎明期:個人オンノベサイトの活躍
- 拡大期1(2010年~):小説家になろう躍進
- 拡大期2(2011年~):脇役主人公華麗に登場
- 転換期(2012年~):転生悪役令嬢、爆誕
- 成熟期(2014年~):個人オンノベサイトの来襲
独断と偏見が混じっていますので、そこらへんは(・ω<) テヘペロ
黎明期 個人オンノベサイトの活躍
自分のオンノベ歴としては2006年頃がスタート。
小説家になろうが一般化する前、オンノベの人気を牽引するのは個人サイトでした。この頃自分が好きだったのはここら辺(""がサイト名、「」が作品名)
- 糸森環先生の"27:09分の地図"「F(エフ)」「she&sea」「花術師」
- 梨沙先生の"小部屋の小窓"「華鬼」
- 古戸マチコ先生の"へいじつや"「やおろず」
- 秋月アスカ先生の"Libera"「道果ての向こうの光」
- 時生彩先生の”アカエナミ”「つがいの歯車」
- 河上朔先生の"therehere"「wonder wonderful」
当時を知る人からすると「どんだけミーハーなの」と言われるくらいにはメジャーどころです。時期の違いはありますがいずれも書籍化していきましたね。
思い出補正もありますが、この時期書籍化されたのは「なんでこれが商業化されないの?」というレベルが多かった。出版社のコンテストに申し込んでいたら普通に入賞してデビューしていたと思われます。
オンライン小説サーチなどのランキングもありましたが、むしろ有名オンノベサイトの相互リンクやお気に入りブックマークを経由して「これが人気作」が定着していった感でしたね。あと、有名な個人読書感想サイトさんが取り上げて、みたいな広がりをしたのも多かったな。
続々イーストプレスから出版されていったので、女性向けオンノベ=イーストプレス発でしたねこの頃。その後アルファポリスにイメージを譲るわけですが。
ここの作品群はオンライン小説→書籍化→電子書籍化しています。紙の本&電子書籍いずれも購入していますー、祝儀買い、ファン買いというやつです。
なろう書籍化ブームで、ファン買いについて考察。 - ゆるふわ√3
拡大期1(2010年~)小説家になろう躍進
初期のなろうは、現代恋愛モノや恋愛ファンタジーなどバラエティ豊か。書籍化も現代恋愛ものが先行したんじゃなかったっけ…?佐野光音先生の「EYES」とか。
今は原則だめですが二次創作(オリジナル作品のパロディ)も盛んでした。なろうに同じような世界観を持った「テンプレ作品」が多いのは、元々二次創作書きな作家が多く、馴染みやすかった名残とも言われますねー。
私のなろう歴としては如月ゆすら先生の「リセット」が最初です。手元情報によると2010年9月。
「リセット」はなろう書籍化としても相当早くて(2010年11月)、今でも定番の「小説家になろう掲載小説をサイトから引き下げ」という手法を取ってます。無料で公開している内容にイラストをつけてどれくらい有料で売れるのか、出版社も数字がなかったんですねー。
「リセット」の功績としては「現代日本の記憶を持った少女が異世界転生して"赤ん坊時代からやり直す"」が大きいかなと。女性向け異世界転生モノは今でもこのパターンを踏襲して幼少期から物語を展開する場合が多いです。
人気のオンノベ作家は個人サイトで連載していた時代だったため、なろうは全体的に玉石混合で石の割合が高かった感が否めません…。私も最初、ケータイ小説との区別がついてなかったし。ブランド価値は個人サイト>投稿サイトで固定されてましたね。
拡大期2(2011年~)脇役主人公華麗に登場
拡大期2-1:スポットの当たる脇役たち。
ROM専としてなろうを回遊するようになって、最初にブームを感じたのが猫田蘭先生の「脇役の分際」でした。
「脇役の分際」は小説家になろう定番の「エタる*1」がなかったのも好印象で、私も読者として初めて評価をつけた作品です。
あらすじとしては「主人公体質のクラスメイトばかりいる中で、徹底的に脇役体質の主人公が、戦隊ヒーローのサポート役として活躍したり、恋愛モノの当て馬になったり、魔女っ子のお手伝いとして参戦したりする話」。
「脇役の分際」が画期的だったのが、正統派ヒロインではなく脇役を主人公ポジションに置いた点。正統派ヒロインという存在を、作者と読者が「お約束」として共有するメタ視点は斬新で、その後も続く乙女ゲー転生モノ、悪役令嬢転生モノの系譜を作ったと言っても過言でありません。
「脇役の分際」登場後、脇役が主人公ポジションで活躍する設定が増加する裏で、普通の現代恋愛モノ、恋愛ファンタジーがちょこちょこ書籍化していきます。「地下鉄エトセトラ」「モンスターズ・ナイト」「蔦王」「愛してると言いなさい」「薬屋のひとりごと」などなど。
ここら辺の作品群は、たまたま使用したプラットフォームが「小説家になろう」だっただけで、出版社選んで応募すれば新人賞だったり入れたのではないかしら、という印象。
拡大期2-2:脇役は乙女ゲー世界で奔走する。
そしてこちらも2011年連載開始。ループし続ける乙女ゲームの世界に転生したことに気が付いた脇役の女の子が、乙女ゲーム世界の謎を突き止めループ回避しようとするストーリー。
乙女ゲームの世界に脇役転生して、ループを回避/イベントフラグを折る/ヒロインの毒牙から大切な人を守るといったストーリー展開、いわゆる「乙女ゲー世界転生」。この乙女ゲー世界転生は、新感覚でミステリの謎解き展開も兼ねてドラマティックだったのもあり、一躍ムーブメントになりました。
乙女ゲームという性質上、イケメン男子が複数登場して逆ハーレム化しても違和感ないのが上手かったなと。乙女ゲームでは昔から二次創作という文化があって「乙女ゲームの世界に迷い込んだオリジナル主人公」設定は定番なので源泉はそこですかね。
ジュディハピの啓発を受ける形で「乙女ゲー世界転生」がなろう女性向け人気ジャンルとして一気に広まり、あらすじやキーワードに「乙女ゲー」を入れないと、なろう女性向けでは読んでもらえない時期が到来します。黎明期から人気があった異世界恋愛ファンタジー、「異世界召喚(転生)女子」と並ぶ、1大ジャンルとして地位を確立していきます。
転換期(2012年~)転生悪役令嬢、爆誕
革命ではなく、革新、カイゼン。
各出版社などがコラボする形でなろうサイト内で出版社主催のコンテストが開催されるようになり「開催期間中は更新頻度が高くなる」現象が頻繁に起こるようになります。読者は嬉しいけれど、正直、殺伐とした感も強かったかな、とか。パクリ騒動とか頻繁に起こっていましたし。アンチも各所で沸いてた。
女性向け界隈では乙女ゲーがランキングを席巻、一大ジャンルとして定着しつつありました。異世界召喚恋愛ファンタジーでなければ乙女ゲー世界転生だろう、というほどの定着度。その陰で王道学園ラブコメやオフィスラブな名作が生まれてました。
乙女ゲー世界転生も、王道の学園乙女ゲーから異世界乙女ゲー、ダーク系乙女ゲー、怪奇乙女ゲー、ヤンデレ乙女ゲーなどバラエティ豊かな傍流が。脇役主人公も、サポートキャラから背景なモブ、ヒロインの姉妹、攻略対象キャラ(男)に転生した元女、攻略対象のペットなど、よく思いつきましたね!という亜種が生まれていきます。
なんというか、ゼロベースじゃなくてすでにある枠組みの中で独自性を出そうという試みが日本ぽくて興味深かったです。「iPhoneのような革命的な商品が日本では生まれない」いやいや、生み出す必要がなかったのかもー。
悪役はつらいよ。
そんな時、脇役主人公の強烈な亜種として登場したのが悪役令嬢です。
乙女ゲーや少女漫画においてはお約束である「正統派ヒロインの当て馬」悪役令嬢を、現代日本の記憶持ち転生者として主人公ポジションに配置。「正統派ヒロインを苛め抜き、最後はヒーローに成敗される」というお約束展開(悪役令嬢にとっては悲劇)を回避させるという設定が次のブームを生みました。
作者と読者が「お約束展開」というメタ視点を共有、さらに作者が昇華させことで「made in 小説家になろう」の新たなジャンルが誕生した瞬間です…!
涼風先生の「悪役令嬢後宮物語」が2012年2月に連載開始して道を敷き、"なろうの女性向けは総数が少なすぎて総合ランキング上位は難しい"を覆すモンスター作品「謙虚、堅実をモットーに生きております!」(累計ランキング2位、2015年2月現在)が2013年7月に連載開始。これにより「異世界召喚(転生)女子」「乙女ゲー世界転生」と並ぶ第3の勢力として「悪役令嬢転生」ジャンルが頭角を現すことになります。
刈り取られる才能たち。
同時期、なろう男性向けでランキング掲載の有望作を片っ端から刈り取っていた(=書籍化していた)出版社が女性向けでも刈り取りを本格化。「え?それ刈り取るの?」と不安になる青い果実にまで出版社は手を出し始めます。
「たまたま小説家になろうのプラットフォームを利用してただけで、出版社主催のコンテストに応募すれば書籍化したよね」作品群から「made in 小説家になろう(乙女ゲー世界転生、悪役令嬢転生)」の、なろうメイド作品群に書籍化が広がった。そんな、エポックメイキング的な出来事でした。
「乙女ゲー世界転生」のテンプレ設定を踏んだ作品が、二番煎じでも三番煎じでも書籍化してったあたりで、あ、これは風向きが変わったぞ、もはやテンプレ設定というより「ジャンル」として(一部の)出版社には認識されたんだな、と感慨深かったです。ランキングやブックマークを見れば固定読者が太いのは想像に難くないですし、ニッチ戦略で行けると判断したんですね。
書籍化のハードルが下がったことを受け、それぞれの作品ファンによる「あれはパクリ」「劣化コピー」論争が局地的に繰り広げられ、情報戦も熱かった。作者の割烹(活動報告)や感想欄に如何にもなアンチが湧いたり。みんな、自分のお気に入り作品に書籍化してほしいのですよ。
成熟期(2014年~)個人オンノベサイトの来襲
乙女ゲーに続き悪役令嬢も「それ何番煎じ?」という停滞の空気が流れ始めたこの頃。
- 異世界召喚(転生)女子
- 乙女ゲー世界転生
- 悪役令嬢転生
が三大ジャンルとして勢力を維持し、その隙間を現代恋愛モノ(学園・社会人)が埋める形でランキング展開します。これまで「お約束」「メタ」として意図的に盛り込まれていた「現代知識持ち転生」「乙女ゲー的世界観」を、無意識に取り入れたor常識として盛り込んだ作品も定着してきました。実力のある作家が、これを逆手に取った短編を公開したり、局地的には楽しかった。
しかし、出版社主催のコンテストも年中開催されるようになったことで、有望作が出ては刈り取られ、出ては刈り取られる状況へー。
そこに懐かしい風が吹き荒れます。そう、個人オンノベサイトからの来襲です。「小説家になろうでも作品掲載します!」「実は私、なろうサイトで別名義作品公開してました」。上記の秋月アスカ先生や、"no-seen-flower"の藤村由紀先生(古宮九時名義)などなど。
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と思いきや、元々実力のある個人オンノベサイトの作家のこと、カミングアウトとほぼ同時に出版社に刈り取られていきました...。
さらには、みかみてれん先生の「恋したら死ぬとか、つらたんです!」や、杜間とまと先生の「無職独身アラフォー女子異世界奮闘記」のような、タイトル地雷で一般向けは難しいんじゃ?みたいな癖のある作品群まで刈り取られ、
かつての「アマチュアの最高値、上澄みを掬って書籍化しましたー!」な時代は完全なピリオドを迎え、「固定読者ついた人気ジャンルの作品なら安パイでしょ」時代に突入したのですー。めでたしめでたし?
もちろん「いつか自分の本が本屋に」という作者の夢が叶うのは、読者として嬉しいんです。でも、敷居が下がっていろんな「なろうメイド」作品が世に展開され始めたことによって、世間の目も厳しくなったなーとか。高い壁の中でキャッキャウフフとユートピア楽しんでいた身としては、肌身に直接感じるようになった冷たい風に身を縮める次第です。は...!これが世に言う「最近のラノベは」現象というやつか、と。
総括的な。
これ書いたきっかけって、こちらのしっきーさんの記事を読んでだったんですが、
Youtubeにしろ、ブログにしろ、自身でコンテンツを売り出して収益が立てられるのってアマチュアにとって大切だよね、と。「出版社や番組制作会社的なプロの団体に属さないとコンテンツの売出しは難しい」みたいな空気感が残っているプラットフォームは、どうしてもプロの狩場的な、上下のヒエラルキー的な要素ができてしまうんだろうなーとか感想を抱いてしまいます。
あくまで空気感で、実際には個人の電子書籍、それほどもう敷居高くないと思うのですけども。
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*1:未完のまま更新されなくなること。永遠の未完、エターナるが由来。