青猫文具箱

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小説家になろうダイジェスト版掲載禁止について一読者な個人の感想。

6月1日に小説家になろう(以下「なろう」)グループ公式ブログで発表された「【重要】ダイジェストのお取扱い、その他規約に関するお知らせ」。これまで容認されていた書籍化作のダイジェスト掲載を禁止とする内容に、書籍化作家さんのTwitterやサイトの活動報告を中心としてちょっとした騒ぎになってます。

Twitterでの議論を眺めているうち、読み専(なろうのアカウントを持ちつつも作家活動を行わない読む専門の読者)な自分の現在の所感を書き留めたくなったのでまとめました。

 

まず、なろう書籍化パターンを概略すると、

小説家になろう書籍化ブームで、ファン買いについて考察。

小説家になろうから書籍化になった場合、それまでサイトに掲載されていた小説はどうなるかというと、

  1. 掲載小説をサイトから引き下げ
  2. 掲載小説の書籍化部分をダイジェスト化(やや詳細なあらすじのみ)
  3. 掲載小説はそのまま(+書籍版を大幅加筆)
のパターンを取ります。

1のパターンで有名なのだと「魔法化高校の劣等生」(作者:佐島勤)「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」(作者:大森藤ノ)「君の膵臓をたべたい」(作者:住野よる)。サイトから完全引き下げで大幅加筆により出版されています。なろうの書籍化に関するガイドラインでは、

ガイドライン || 書籍化に関して

小説家になろうでは作品の部分掲載をお断りしております

作品の冒頭部分のみを掲載し「続きは書籍で」といった形や、書籍化部分が削除された状態で継続掲載が行われているという状況が確認されました場合は、運営対応の対象となる場合がございます。

となっているため、書籍化に含まれない続き部分も含めてサイトからは削除されます。

既存読者も新規読者も書籍版を買わないと読めないため、ある意味すっきりなパターン。ただ、なろうにおける定期的な宣伝経路を閉ざすことになるので、出版社がプロモーションを頑張らないとその後が厳しい印象です。一部毒者(クレーマー読者のこと)からは「読者切り」「なろうを宣伝に利用しただけ」と叩かれることもあります。

3のパターンでは、最近だと例えば、書籍化からアニメ化までなった「Re:ゼロから始める異世界生活」(作者:長月達平)や、続刊が続く「その無限の先へ」(作者:二ツ樹五輪)。Web掲載はそのまま、続きがある場合は普通になろうで更新が続いています。

書籍化版作業とWeb版更新で二重負担がかかるため、1巻は発売されたもののその後Web版の更新が途絶え(エタり)、書籍版の売り上げも伸びずに打ち切り、という悲劇をたまに見かけます。

だからこそこれができる作家はやっぱり尊敬します。作品だけでなく作家自体も応援したくなる。「宝石吐きの女の子」のなみあと先生なんて、それに加えてマメにTwitter(@nar_nar_nar)も更新されていてすごいなぁと。あ、6月3日に4巻が発売されましたね。

宝石吐きのおんなのこ(4) ~彼女の想いと彼の想い~ (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)

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そして、今回なろうの規約改定により話題になっているのが、2の「掲載小説の書籍化部分をダイジェスト化」で出版された作品の取扱い。

掲載小説の書籍化部分をダイジェスト化し、続きがある場合はなろうで更新を継続するパターン。書籍化作業とWeb版更新に加え、ダイジェスト用文章も作成するため、負担が三重になります。なろうの書籍化ガイドラインでは、

ダイジェスト版に関して

ダイジェスト版に関しましては箇条書きや掻い摘んだものではなく、読み物としての体裁を為すに十分な描写・文章量をご準備いただきますようお願いいたします。

とされているため、単なる要約ではなく、例えば主人公とは別視点の物語を用意したりする工夫が必要になるんですよね。このダイジェスト化に関しては批判も根強く、

  • ダイジェスト版を読んだ新規読者が、書籍版を買う動機にならない
  • 小説検索でダイジェスト版が引っかかり、小説を読みたい読者の意欲を削ぐ
  • ダイジェスト版が累計ランキングに残り、他の新しい小説がランクインするのを阻害する
  • ダイジェスト化作業が作者の負担になる

Twitterや2ちゃんねるの板を見ていると、このあたりがよく言われる印象です。

加えて、ダイジェスト版に切り替えるとランキングが落ちるので(好意的に評価する人がいない、新規読者が獲得できないため)作者のモチベーション低下も大きい印象です。

 

さてそんな批判も多いダイジェスト版ですが、6月1日になろうグループ公式ブログで発表があり、

【重要】ダイジェストのお取扱い、その他規約に関するお知らせ【追記あり】

現在、書籍化等により本文の全掲載が難しい場合には、下記のようなご対応をお願いしております。

  1. 掲載分のストーリーを一度まとめ切り、完結済み作品として投稿する
  2. 掲載分でストーリーが完結している小話や外伝のみを残し、本文は全て削除を行なう
  3. 出版に伴い削除した部分をダイジェスト版と差し替える

上記のうち、「3」のダイジェスト版と差し替えるというご対応に関しまして、誠に勝手ながら9月1日(木)より、全面的に禁止とさせて頂きます。

規約変更により、ダイジェスト版全面禁止となりました。なろう公式が、サイト内で小説を読むアクションが完遂できない「続きは書籍で」を、一律認めない方向に舵を切ったんですね。なろう公式は最近、ジャンル再編成やランキングのデフォルト表示ページ変更など、目に見えてわかる改革を進めています。

なろうを運営する「株式会社ヒナプロジェクト」は、自前で作品を出版するシステムではなく、広告収入に依存していると言われ、

新文化 - 出版業界紙 - 連載 - 衝撃ネット小説のいま

第4回 ヒナプロジェクト30万人の作家抱える 「小説家になろう」

同社の収益源は、ほとんどが広告収入である。「サイトのユーザーに課金するつもりはありません」。(略)

「投稿作品の紙での書籍化は、我われにとってはメディアミックス先のひとつという認識ですね。ネット上のサービスを展開している会社ですから、版元になるつもりはありません」。

書籍化後、なろうから活躍の場を移した作者へのフォロー(プロモーションその他)は版元にお任せして前面に立つことはしていないんですよね。役割分担がきっちりしている。

そのため、なろうサービスを利用するユーザーの「ユーザー離れ」を起こさないように対策を打ったんだなという感想です。一読者な自分から見ても、ここ1、2年くらいマンネリ化はあった気がしますし。成熟期と考えれば仕方のないことですけれど、停滞をそのままにすると新規読者の呼び込みが難しく、大局から見ればジリ貧になりますし。

 

そして、今回のなろう規約変更の影響が一番大きかったといわれる「アルファポリス」。というのも、ダイジェスト化の手法を取って出版する最大手が「アルファポリス」だからです。

なろう公式も事前に調整していたようで即日、アルファポリスが文書を出しました。

(「小説家になろう」で連載中の)作家の皆さまへ(pdf)

こうした対処(三森注:ダイジェスト化)にネットユーザの皆さんより批判の声が強いことは承知しておりましたが、 お金を払って買っていただく著作物を無料で誰もがいつでも読めるのは、ストレートな言 葉で言えば「まずいだろう」と考えてまいりました。

購入者の皆さん、ものを書いて収入を得る作家さん(この二者に関してはあくまで当社の考えであります)、そして当社が出版にあたって労を営む編集・営業、および電子書籍を含 む今後のネットビジネスの将来を考えて、書籍化された作品の「全てを」無料で読めることは、これまで同様、選択肢としてないものとして、運用してまいりました。

また現在でもこうした考えにゆらぎはございません。

書籍化に伴い作品を削除(ダイジェストへの差し替え含む)する方針には変わりはない、という内容です。

ネット小説の登録・閲覧プラットフォーム「アルファポリス」を運営し、人気作を自前で書籍化しているアルファポリスですが、

新文化 - 出版業界紙 - 連載 - 衝撃ネット小説のいま

第1回 アルファポリスネットとリンク、ヒット連発

弊社の売上げの95%はネット上のコンテンツを書籍化した“紙”からです。電子書籍のアプリや広告など、ネットからの売上げは5%にすぎません」

同社の書籍の購入者のうち、実はネットからの読者の割合は5~20%。つまり、8割以上が書店店頭で初めて作品を知って購入している。ネットで人気になる作品は、そもそもひとを惹きつける“匂い”をもっており、ゆえに紙で出すとそれまで存在を知らなかった人たちも興味をもつのだそうだ。

「広告収入メインのなろう」と「書籍化収入メインのアルファポリス」では考え方や方向性が違ってくるのは当然だと思います。見ようによっては、なろうの出口がアルファポリスの入口にも等しいわけで(引用は2013年の記事のため収益構造が変わっている部分もあります)。

 

なろう公式は書籍化作家であっても(場合によっては出版社であっても)、規約違反があった場合にはアカウントの強制削除など厳正な対処をすることでも知られており、今回の規約変更の発表を受け、ダイジェスト版を掲載している書籍化作家は続々、該当作品の削除(→アルファポリスサイトへ活動の場を移行)しています。

これまでの蓄積(作品の他にも読者の感想やレビュー、評価やブックマークなど)も一緒に消さないといけないわけで、作者には結構堪えるんじゃないかなと想像できて...痛い。モチベーション下がらないのを祈るばかりです(あと、最近ダイジェストしたばかりの作家を見たんですが、あれはひどくないか)。

それに、アリファポリスで出版の作家陣に対して、毒者が、作者のメンタル削るようなことを言わないといいなと感じてます。今回の件で、わざわざ作者に見える形で宣言して作品を見限るの、第三者が見ても辛い。

 

プラットフォームってやはり大きくて、それはなろう作家陣が「カクヨム」で連載開始してどれくらい「読者がついていったか」を考えれば様子は伺えますが、アルファポリスに活躍の場を移した作家陣が、それで創作意欲を削がれる結果になることがやや心配でもあります(なろうとアルファポリスで平行連載している作家も多いので全員がそうとは言えませんが)。

多分自分も、なろうのサイトを開くほどにはアルファポリスのサイトを開かないだろうしな...あれって、いかに読者がサイトを開くのが習慣化されているかのわけで、アルファポリスのアプリって動線的に合わない面があるんですよねー...起動のたび最初に画面全体を覆う系の広告ってそれだけでヘイト貯めるし。

なろうとアルファポリス、お互いがタイミングを見ての「今」の決断だったと思うので、間違ってもお互い損しただけ、な未来にならないよう一読者としてこれからも書籍化作のファン買いを頑張り、なろうサイトの広告を煩わしいからとブロックしないようにしたいと思う所存です。

 

あと、このブログでこれまで紹介してきたなろう作品のなかにも、アルファポリスさんで書籍化された作家さんの作品があって、「アルファポリスのサイトにリンクを貼るか、紹介作品を変更しようか」と迷っていたんですが、検索経由で来る方は「小説家になろうのオススメ作品」を探しに来ているので、後者の対応にします。

そのため、掲載作品が以前と変わっている、ということがあるかと思いますが申し訳ありません。順次過去記事をリライトしていきたいと思います。

 

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